不倫慰謝料請求権の時効「数え方」と「時効を止める方法」について

不倫の慰謝料請求には時効がある

夫や妻に不倫されたら不倫相手や配偶者に慰謝料を請求できます。しかし、不倫慰謝料請求には「時効」が適用されるので、いつでも請求できるわけではありません。

不倫慰謝料の時効は、不倫相手に請求できる期間と配偶者に請求できる期間が異なるケースもあるので注意が必要です。

今回は不倫されたときの慰謝料をいつまで請求できるのか、時効の期間の数え方や時効を止める方法について解説します。

不倫慰謝料の時効ってどれくらい?

不倫慰謝料の請求権には「消滅時効」が適用されます。

消滅時効とは、一定期間請求をしない場合に権利が失われてしまう制度。請求権があるにもかかわらず長期間請求しない人を保護する必要はないし、請求される側も「これだけ長い間請求が来ないならもはや請求されないだろう」と期待するものです。
そこでその期待感を保護するためにも時効制度が定められています。

不倫されて慰謝料を請求できるのは、被害者が配偶者の裏切りに遭って大きな精神的苦痛を受けるからです。

配偶者と不倫相手は「不倫」という「不法行為」をしたことになるので、被害者は「不法行為にもとづく損害賠償請求権」として配偶者と不倫相手の両方へ慰謝料請求できます。

不法行為にもとづく損害賠償請求権にも「消滅時効」が適用されるので、不倫慰謝料の場合にも一定期間請求も回収もしなければ権利が消滅して一切請求できなくなってしまいます。

不倫慰謝料の時効の基本的な数え方

不倫慰謝料の時効はどのくらいで成立するのでしょうか?
不倫慰謝料の期間の数え方をみてみましょう。

損害発生と加害者を知ってから3年間

民法によると、不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効期間は「損害発生及び加害者を知ったときから3年間」とされています。

つまり「損害が発生したこと」と「加害者」の両方を認識してから3年間が経過したら損害賠償請求できなくなります。

これを不倫の慰謝料にあてはめると、以下の2つの事実を把握してから3年間が経過した時点で慰謝料請求権が失われることになります。

  1. 配偶者が不倫している事実
  2. 不倫相手の素性(氏名など)

上記の両方を知ったときから慰謝料請求権の時効期間である3年をカウントします。

そもそも不倫されていることを知らなければ、慰謝料請求権が3年で時効にかかる可能性はありません。
また夫や妻が不倫している事実を把握していても、不倫相手が誰かわからない状態では慰謝料請求権の時効は進行しません。

損害が発生してから20年

ただし不倫されていることに気づかず不倫相手が誰かわからない状態でも、あまりに長い時間が経つと慰謝料請求できなくなる可能性があります。

民法では、「損害が発生してから20年が経過したら権利が消滅する」と規定されているからです。

不倫のケースにあてはめると、不倫されてから20年が経過した時点で慰謝料請求できなくなります。不倫していることに気づいていない場合や不倫相手が判明しないので慰謝料請求できない場合でも、20年が経過したら慰謝料は請求できなくなるということです。

時効の効果を得るには「時効援用」が必要

民法で不倫慰謝料に3年や20年の時効が認められていますが、必要な期間が経過しても必ずしも時効の効果が発生するとは限りません。
時効の効果を得るには「時効援用」という手続きが必要だからです。

時効援用とは、時効によって利益を得る人が「時効の利益を得ます」という意思を明らかにすることです。時効期間が経過しても、債務者から「時効援用」されない限り債権者は債務者へ支払いを求められます。

不倫された事実と不倫相手を知ってから3年が経過した後で不倫相手に慰謝料請求をしたとしても、不倫相手が何も言わずに「支払います」と言ったり一部を払ったりしたら、その支払いは有効です。それだけではなく相手は時効を主張できなくなるので、残りの全額を請求できます。

このように不倫慰謝料時効が成立しても、相手に法的知識がなければ時効援用せずに払う可能性があります。あきらめずに請求してみるとよいでしょう。

不倫相手から「時効が成立している」といわれたときの注意点

では、不倫相手から時効が成立していると言われたら、慰謝料は請求できないのでしょうか?

このパターンでは以下で解説する点に注意する必要があります。

不倫相手の主張する時効と実際の時効がずれている可能性がある

不倫が行われてから長時間が経過してから慰謝料請求すると、不倫相手から「3年以上経過しているので時効が成立しています。時効を援用するので支払いはしません」と言われるケースが多々あります。

そのようなとき、必ずしも相手の主張内容が正しいとは限りません。
不倫相手の慰謝料の時効のカウント方法が間違っている可能性があるからです。

不倫の慰謝料請求権の消滅時効は「不倫の事実」と「不倫相手」の両方を知ってから3年間で成立します。

ところが配偶者に不倫されたとき、被害者はすぐに不倫の事実に気づくとは限りません。2~3か月や半年が経過してからようやく不倫の事実関係を把握するケースもあるでしょう。

また配偶者と不倫相手のLINEメッセージなどを見て不倫に勘づいても、不倫相手が誰か分からない状態が続くパターンも非常に多いものです。
不倫相手を特定できるまでは慰謝料の時効が進行しないので、たとえば不倫が始まってから1年経って不倫相手を突き止めたら、そこからようやく不倫の3年の時効が進行し始めます。

不倫相手が「時効が成立しているから慰謝料は支払わない」と主張していても、「不倫し始めてから3年」で時効をカウントしている場合、正しい時効の数え方とズレが発生して、「本当はまだ時効が成立していない」可能性があります。

そのような場合、時効は成立しないので慰謝料を請求できます。

不倫相手の主張と実際の時効がずれるケースの具体例

たとえば実際に不倫されたのが2016年5月~2016年12月だったケースで考えてみましょう。

配偶者が不倫に気づいたのが2017年2月、不倫相手の素性を把握できたのが2017年12月だったとします。配偶者は2020年2月に不倫相手へ慰謝料請求をしました。

不倫相手は「不倫が終わってから3年以上経過しているので時効になっています。」と主張します。ところが配偶者が不倫に気づいたのは2017年2月、不倫相手の素性を把握したのは2017年12月なので、その3年後である2020年12月までは時効は成立しません。

よって2020年2月の段階では時効にかからず、不倫慰謝料を請求できます。不倫相手の主張を受け入れて諦める必要はありません。

不倫相手から時効を主張されたら「本当に時効が成立しているか」確認する

このように不倫相手から「時効が成立している」と主張されても現実には時効が成立していない可能性があるので、まずは「本当に時効が成立しているか」数え直してみましょう。

不倫の事実と不倫相手の両方を把握してから3年が経過していなければ時効は成立しないので、相手による時効援用は無効です。そのことを相手に伝え、全額の慰謝料支払いを求めましょう。

自分では慰謝料の時効が成立しているかどうか正しく計算する自信がない場合、弁護士に相談してみてください。

不倫慰謝料と離婚慰謝料の違い

配偶者に不倫されたとき、不倫相手だけではなく配偶者に慰謝料を請求できます。
ただし配偶者に適用される慰謝料の時効期間と不倫相手に適用される慰謝料の時効期間は異なる可能性があり、注意が必要です。

配偶者への「不倫慰謝料請求権の時効」

配偶者が不倫したら不倫慰謝料を請求できます。

不倫慰謝料の時効は「不倫の事実と加害者を知ったときから3年間」ですが、「配偶者が誰か分からない」ことはありえないので、不倫の事実を知ったときから3年間が配偶者への慰謝料の時効期間となります。

その場合、不倫相手に対する慰謝料請求権の時効より短くなってしまう可能性があります。不倫相手については素性不明なケースがあるからです。

配偶者への「離婚慰謝料請求権の時効」

配偶者が不倫すると、夫婦関係が悪化して離婚に至るケースが多々あります。
実際、離婚しないなら配偶者に慰謝料請求してもあまり意味がないので、配偶者へ慰謝料請求するのは、離婚するケースの方が多いでしょう。

そして離婚慰謝料の時効は「離婚後3年間」であり、不倫慰謝料のカウント方法と異なります。

そうなると不倫相手に対する慰謝料請求権の時効と配偶者に対する離婚慰謝料請求権の時効期間は一致しない可能性が高くなります。

たとえば不倫されたのが4年前で当時から不倫相手を知っている場合でも、すぐには離婚せず、その後2年が経過してから夫婦関係をどうしても修復できず離婚したとしましょう。

この場合、不倫の事実と不倫相手を知ってから4年が経過しているので、不倫慰謝料の時効は成立しており不倫相手に慰謝料請求できません。

ただし離婚後2年しか経過していないので、元配偶者へは離婚慰謝料を請求できます。

このように、配偶者と離婚した場合には不倫相手に対する慰謝料請求権が失われても配偶者には離婚慰謝料を請求できる可能性があるので、間違えないように計算してください。

不倫相手に離婚慰謝料を請求できるのか?

不倫した配偶者に対しては離婚後3年間慰謝料を請求できると聞くと「不倫相手にも離婚慰謝料を請求できないか?」と考える方がいらっしゃいます。

不倫相手に離婚慰謝料を請求できるなら「離婚後3年間」慰謝料請求できるので、不倫相手の素性をつかんでから4年や5年などの時間が経過していても慰謝料請求できる可能性があります。

しかしこれについては近年判例がでており「基本的に不倫相手には離婚慰謝料を請求できない」と判断されています。

そこで不倫相手に離婚慰謝料を請求することはできず、「不倫の事実と不倫相手の素性を知ってから3年間」に請求する必要があります。

配偶者が不倫しているかも知れないと勘づいたら、すぐに行動を開始して不倫相手の素性を突き止め、早めに慰謝料請求を行うのが良いでしょう。

時効を止める方法とは?

時効を「中断」したら時効は止まる

不倫相手に対する不倫慰謝料も配偶者に対する離婚慰謝料も「請求しようか」と迷ったり日常生活が忙しくて後回しにしたりするうちに、3年の時効成立が間近に迫ってしまうケースがあるものです。

その場合、時効成立前なら「時効を止める」ことが可能です。

時効を止めることを法律的に「時効の中断」と言います。時効が中断されると、また当初からの期間の数え直しになります。時効の中断を繰り返していれば、時効は成立しません。

なお2020年4月から民法が改正されて「時効の中断」という言葉がなくなり「時効の更新」「完成猶予」に変わります。

ただし内容は実質的に同じなので、ここでは主に「中断」という言葉を使って解説していきます。

時効の中断事由

民法では、以下のような事情が時効の中断事由(新民法における更新、完成猶予事由)とされています。

債務承認

債務承認とは、債務者本人が「債務があります」と認めることです。以下のような場合に債務承認が成立します。

「支払います」と言った

口頭で支払いますと言っただけでも債務承認になります。ただし証拠が残らないので、実際に債務承認させるなら音声録音したり書面を差し入れさせたりすべきです。

債務があります」「支払います」などの債務承認の書類を差し入れた

書面の差し入れがあれば債務承認になります。ただし「そのような書面は書いていない」などと言われると困るので、日付をきちんと入れて署名押印させましょう。

債務の一部を支払った

元本だけではなく利息の一部を払っただけでも債務承認になります。

債務承認があると、そのときから改めて3年が経過しないと時効が成立しません。

裁判上の請求

裁判で債権の支払い請求をすると、時効が中断されます。判決が出て確定したらその時点から10年間が経過しないと時効が成立しません。

不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効期間はもともと3年間ですが、判決が出た場合には時効が10年に延長されます。このことは新民法でも同じです。

差押え、仮差押、仮処分

公正証書等にもとづいて相手の給料や預貯金などを差し押さえた場合にも時効は中断します。また裁判前に仮差押や仮処分を行った場合にも時効は中断します。
不倫慰謝料請求のケースでは、これらの時効中断方法をとるケースは少ないでしょう。

内容証明郵便による請求(催告)

中断ではありませんが、内容証明郵便を使って相手に慰謝料請求をすると一定期間時効を「停止」できます。内容証明郵便で請求することを、法律的に「催告」といいます。

催告をすると、そのときから6か月間時効期間が延長されて、その間に裁判を起こせば確実に時効を中断できます。時効成立が目前に迫ったとき、すぐには訴訟を起こせないなら内容証明郵便で請求をして6か月間時効を伸ばしましょう。
その間に弁護士に相談するなど訴訟の準備をして期間内に裁判を起こせば権利を守れます。

時効成立までに期間があっても慰謝料請求は早く行うのがベスト

不倫慰謝料請求権や配偶者に対する慰謝料請求権には時効が適用されるので、必ず「時効成立前に請求すべき」です。時効が成立してしまったら、1円も回収できない可能性が高くなります。

時間が経つと証拠を集められなくなる

ただし「時効が成立する前であればいつ請求してもかまわない」わけではありません。

慰謝料請求には準備期間も必要ですし、証拠を集めなければならないからです。証拠がないのに慰謝料請求をしても、相手から「不倫していない」と反論されたら言い返せずあきらめるしかなくなります。

不倫があってから時間が経つと、新たに証拠を集めるのはどんどん難しくなっていきます。

たとえば不倫している最中なら、配偶者は不倫相手と親しげにLINEメッセージやメールを交わしているでしょう。そこでスマホの画面を写し取ったり、配偶者がスマホやパソコン、タブレット内に保存している写真や動画をコピーしたりして証拠集めができます。

また配偶者は頻繁に不倫相手と逢うでしょうから、探偵に依頼して尾行調査を行い不倫の現場を押さえたりもできます。スマホの通話明細書を取ったら深夜に何時間も話し込んでいる事実が発覚するケースもあります。

しかし不倫してから時間が経つと、上記のような証拠は集められなくなります。別れてしまってからでは跡をつけても不倫の現場を押さえることはできません。

そこで不倫の慰謝料請求は「なるべく早めに行う」べきです。できれば「不倫が行われている最中」に必要な証拠を集めて請求をして払わせるのがベストといえます。

不倫相手の素性がわからないなら早めに特定する

不倫相手の素性がわからなくて慰謝料請求できない状態なら、確かに時効は成立しませんが証拠はどんどん失われていきます。早めに探偵事務所や弁護士に相談して相手を特定し、慰謝料請求を進めると良いでしょう。

まとめ

配偶者に不倫されたとき、慰謝料を請求しようか,離婚しようかなどと迷っているうちにどんどん時間が経過してしまい、最終的には時効によって慰謝料請求できなくなる可能性が高くなっていきます。

お一人で判断するのが難しい場合には、弁護士や探偵事務所に対処方法を相談し、不倫相手の特定や証拠集めをして、慰謝料請求を進めていきましょう。