仕事や家庭の事情などで別居婚を選択しているご夫婦は少なくありません。別居婚中に浮気をされてしまった場合、「婚姻関係が破綻していない」と判断される場合には、別居婚中の浮気であっても慰謝料請求が可能です。
ただし、婚姻関係が破綻していないと判断されるためには、定期的に会っていることなどを証明できるようにしておく必要があるでしょう。
こちらの記事では、別居婚中に浮気された場合の慰謝料請求について詳しく解説いたします。
- 別居婚について
- 別居婚中の浮気で慰謝料請求できるのか
- 別居婚中に浮気をされたときの問題点
別居婚とは
別居婚とは、婚姻関係を維持しながら、それぞれ別の場所に住んで生活する婚姻形態のことを指します。別居婚はお互いの生活のペースを尊重できるため、ストレスが少ないというメリットがあります。しかし、一方ではコミュニケーションの不足や浮気をしやすい環境になるというデメリットもあります。
別居婚は合意があれば違法ではない
別居婚は、合意があれば違法ではありません。法律上、夫婦には同居義務(民法752条)があります。(※1)しかし、夫婦双方の合意があれば別居していても違法になりません。
単身赴任などの不可抗力による別居に限らず、夫婦関係を円滑に営むための別居も認められています。
近所or同じマンションの違う部屋に住む
夫婦があえて同居はせずに、近所や同じマンションの違う部屋に住むこともあります。
次のような理由が考えられます。
- 介護のため(どちらが親と同居)
- 仕事のため(在宅ワークに集中)
- 心地よい距離感で暮らすため
別々に暮らすことにより、お互いの生活のペースが保たれて、丁度よい距離感を保てるのでしょう。週末はどちらかの家で過ごしたり、食事を共にしたりするため「週末婚」や「通い婚」ともいわれます。
どちらかが職場の近くに住む
夫婦がお互いに仕事をしている場合、どちらかが(あるいは双方が)職場の近くに住むために別居婚を選ぶこともあります。
東京⇄大阪、日本⇄海外など、お互いの場所で仕事をしながら婚姻関係は維持します。
職場の近くに住むことで、通勤時間を短縮できたり、それぞれの仕事を無理なく続けられるのがメリットです。
別居婚中の慰謝料請求のポイントは「婚姻関係の破綻」
別居婚は、それぞれのライフスタイルを尊重しながら婚姻関係を維持できるため、メリットのある婚姻形態です。しかし、お互いの普段の生活が見えないことから、浮気の温床となりやすい面もあります。
別居婚中に配偶者の浮気が発覚した場合、ショックや悲しみとともに考えるのが「通常の結婚生活の人と同じように慰謝料は請求できるだろうか?」ということです。
結論からいうと、別居婚中であっても、婚姻関係が破綻していなければ慰謝料請求可能です。ここで重要なポイントなのが「婚姻関係が破綻していたかどうか」です。裁判所や調停で、すでに夫婦関係が破綻していたと判断された場合、慰謝料請求は難しいでしょう。
別居婚中の浮気で慰謝料請求できるケース
別居婚中の浮気で慰謝料請求ができるのは、婚姻関係が破綻していない場合です。婚姻関係が破綻していないと判断されるケースとしては、次のようなものがあります。
短期の別居である
1~2年未満の短期の別居であれば、婚姻関係が破綻していないとみなされる可能性が高いでしょう。例えば、関係が良好な夫婦が数ヵ月ほど別居していたからといって、夫婦関係が破綻しているとは判断されません。
ただし、どれくらいの期間であれば問題視されるのか、明確な決まりがあるわけではありません。あくまで個々の事例により判断されます。
離婚を前提としない別居である
婚姻関係が破綻していないとみなされるためには、離婚に向けての別居ではないことが条件です。別居が離婚に向けたものであれば、婚姻関係が破綻しているとみなされてしまいます。
離婚を前提としていない別居であり、夫婦関係が良好に維持されていたことが証明できれば、慰謝料請求は認められやすいでしょう。
合意のない別居である
夫婦双方が納得した別居ではなく、どちらかが一方的に家を出て別居し、さらに浮気に至った場合には、慰謝料を請求できる可能性が高いでしょう。
ただし、たとえ一方的な別居であっても、長期間放置し、その状態が続いた場合には、婚姻関係が破綻しているとみなされてしまいます。その場合、慰謝料請求が認められない可能性があるため、十分に注意しましょう。
夫婦間の交流がある
夫婦間でコミュニケーションがとれている場合は、婚姻関係は円滑であると判断されます。
次の場合には、夫婦間の交流があるとみなされるでしょう。
- 定期的に会っている
- 頻繁に連絡を取り合っている
もし、定期的に会っている場合は、一緒に写真を撮っておくと良いでしょう。万が一の場合に、婚姻関係が破綻していなかったことの証明になります。LINEのメッセージなども消去せずに保存しておくと安心です。
性交渉がある
性交渉があることも、夫婦の関係が円滑であることの判断材料になるでしょう。
別居していると、会う回数そのものも少なく、セックスレスになりがちかもしれません。しかし、婚姻関係を維持しているとみなされるためには、性交渉があるほうが安心です。
別居のための事情がある
夫婦関係の悪化ではなく、なんらかの事情があって別居している場合には、婚姻関係が破綻しているとはみなされません。
- 単身赴任による別居
- 介護のための別居
- 入院による別居
- 子どもの通学のための別居
上記のような事情があれば、夫婦関係が悪化したための別居とは判断されないでしょう。
別居婚を解消する時期を決めている
別居期間を解消する時期を決めていて、別居解消後の夫婦の将来も考慮している場合、婚姻関係は破綻しているとはみなされません。
次のように期間限定で別居婚を選択することはあるでしょう。
- 介護が終わるまで
- 退職するまで
- 子どもの通学が終わるまで
別居婚を選択するとしても、期間を明確に定めておくと、夫婦関係を維持するつもりがある意思表示ができるでしょう。
別居婚中の浮気で慰謝料請求できないケース
別居婚中の浮気で慰謝料請求が難しいのは次の4つのケースです。1つでも当てはまる場合、婚姻関係が破綻しているとみなされる可能性が高いでしょう。
長期間の別居である
一般的には、夫婦関係の悪化から長期間の別居に及んでいる場合、婚姻関係は破綻しているとみなされ、浮気をされても慰謝料請求が認められないかもしれません。明確な定めはありませんが、おおむね3年以上の別居期間であれば、婚姻関係が破綻していると判断される可能性があるでしょう。
また、別居中に夫婦間の交流がどれくらいあったかも判断基準のひとつです。別居期間が長期間であっても、定期的に会ったり、連絡を取り合ったりしている場合には、婚姻関係が破綻しているとはみなされません。
離婚が前提の別居である
「子どもが成人したら離婚する」「退職したら離婚する」など、将来の離婚を前提とした別居である場合は、婚姻関係は破綻していると判断されます。
つまり、離婚が前提の別居期間中の浮気は、慰謝料請求の対象とはならない可能性が高いでしょう。
離婚調停中の別居である
離婚調停中の別居は、婚姻関係が破綻していると判断されます。そのため、この場合の別居中に浮気をされても、慰謝料請求の対象にはならないでしょう。
ただし、離婚調停中であっても、どちらか一方が離婚に同意していない場合は事情が異なります。どちらか一方が離婚に同意していないということは、婚姻関係が破綻していると断定できないため、慰謝料請求できる場合もあります。
不貞行為(肉体関係)がない
離婚・慰謝料請求の対象となるのは、不貞行為(肉体関係)がある場合です。これは別居婚であっても同様です。(※2)
別居中、配偶者が自分とは別の異性と恋愛関係になり、手をつないだり、頻繁に2人だけで会ったりしていても、性的行為がなければ慰謝料請求はできないでしょう。
再同居の予定がない
将来的に離婚を決めている場合など、再同居の予定がない別居は、婚姻関係が破綻しているとみなされるでしょう。
長期間の別居婚を選択するとしても、夫婦関係を維持するつもりがあるのなら、別居を解消する予定を確認しておきましょう。別居を解消する予定がない状態で浮気をされると、婚姻関係が破綻していると判断されて慰謝料請求できない可能性が高くなります。
夫婦間の性交渉がない
「高齢である」「病気である」などの理由もなく、何年もセックスレスが続いている状態は、夫婦関係が破綻していると判断される可能性があります。
合意してセックスレスなのであればともかく、一方が不満を抱いているような状態であれば注意が必要です。
【注意】別居婚中に浮気をされたときの問題点
別居婚中に浮気をされると、同居中にはない問題が浮上します。次の2点に注意が必要です。
- 婚姻関係が破綻していないことを証明しなければならない
- 不貞行為の証拠を入手しにくい
詳しく確認していきましょう。
婚姻関係が破綻していないことを証明しなければならない
別居婚中の浮気に対して慰謝料請求をする場合には、別居しているとはいえ、「婚姻関係が破綻していないこと」を証明しなければなりません。
婚姻関係が破綻していないことを証明するためには、次のような事実を示す必要があります。
- 別居中も連絡を取り合っていた
- 別居中も定期的に会っていた
- 夫婦一緒に旅行したり出かけたりしていた
- 夫婦一緒に子どもの行事に参加していた
上記の事実を証明するためには、夫婦が一緒に写っている画像などをしっかり確保しておきましょう。
不貞行為(肉体関係)の証拠を入手しにくい
一緒に生活をしていない場合、配偶者が浮気をしていても、証拠の入手が難しいという問題があります。
別居婚中での自力の浮気調査が難しい理由は、次の3つです。
- 配偶者の行動パターンを把握しにくい
- 配偶者が油断した隙に証拠を入手することが難しい
- 配偶者の行動をこっそり見張ることが困難
一緒に住んでいれば、パートナーの持ち物をこっそり確認することや、行動パターンから浮気相手と会っている日を割り出すことも可能ですが、別居の場合は難しいでしょう。
浮気で慰謝料請求をするためには決定的証拠が必要
浮気・不倫を理由に離婚・慰謝料請求をするためには、不貞行為を証明・推認できる証拠が必要です。
つまり、配偶者ではない相手と、自由意志で、性行為をしていると立証できる証拠が必要なのです。(※2)
また、浮気相手に慰謝料請求をする場合には、既婚者であると知っていながら行為に及んでいることの証拠も必要になってくるでしょう。これは、「故意・過失」に関する証拠とされます。
配偶者に慰謝料請求をする場合 | 不貞行為を示す証拠 |
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浮気相手に慰謝料請求をする場合 | 不貞行為を示す証拠故意・過失を示す証拠 |
具体的には、次のような証拠です。
【不貞行為を示す証拠】
- 性行為をしている動画・写真
- ラブホテルに出入りしている動画・写真
【故意・過失を示す証拠】
- 「奥さんとはいつ別れてくれるの?」というメッセージ
- 「これって不倫だよね」という類のメッセージ
さらに、不貞行為の画像は、本人であることが認識できる鮮明な画質であることが求められます。そういった証拠を自力で集めることは困難であるため、探偵事務所に相談するのがおすすめです。
浮気で慰謝料請求をするための手順
配偶者の浮気に対して慰謝料請求をするための手順をご説明します。
- 話し合い
- 話し合いで解決しなければ離婚調停
- 離婚調停が不成立なら裁判へ
まずは話し合いから始まりますが、最初から言い逃れされないためには、決定的証拠をしっかり確保しておくことが重要です。
1. 話し合い
夫婦の話し合いで慰謝料などの取り決めをして離婚することを、協議離婚といいます。離婚・慰謝料請求をする際は、まずは協議離婚で解決できることを目指します。
配偶者が浮気について言い逃れできないよう、不貞行為を証明できる確実な証拠を掴んでから交渉を始めましょう。協議離婚では、夫婦で慰謝料や養育費に関して話し合います。話し合いで合意できれば、離婚届を提出して離婚が成立します。
なお、後々トラブルになるのを防ぐためには、合意内容を公正証書として残しておくのがおすすめです。強制執行認諾文言付き公正証書があれば、相手が慰謝料を支払わなかった場合、裁判所を介さずに財産の差し押さえをすることも可能でしょう。
話し合いが難航するようであれば、弁護士に相談しながら進めることもできます。弁護士なら法的知識に基づいた交渉ができるため、不利になることなく話し合いを進められるでしょう。
2. 話し合いで解決しなければ離婚調停
話し合いで解決しない場合、離婚調停へと進みます。離婚調停では、調停委員がいる部屋に夫婦が交代で入り、お互いの意志を述べます。別居婚中の浮気の場合、婚姻関係がすでに破綻していなかったかどうかも確認されるでしょう。
この段階でも、配偶者の浮気の事実を証明し、慰謝料請求の正当性を主張するためには、決定的証拠を用意しておくことが重要です。
3. 離婚調停が不成立なら裁判へ
離婚調停が成立しなかった場合、裁判へ進みます。裁判で離婚・慰謝料請求を認めてもらうためには、配偶者と浮気相手の不貞行為(肉体関係)を証明する証拠が重要になってきます。どの程度証拠を集められたかは、慰謝料の金額にも関わってくるでしょう。
どのような証拠を揃えたらいいのか、どうやって違法にならないように証拠を集めたらよいのかは、専門家でないと分からないことも多いでしょう。後悔しないためにも、早い段階でプロの探偵に相談して、浮気の決定的証拠を揃えておきましょう。
別居中の浮気で証拠を掴むなら探偵に相談しよう
別居中の浮気であっても、婚姻関係が破綻していない状況であれば、慰謝料請求が可能です。ただし、婚姻関係が破綻していないことを証明する必要があります。また、生活をともにしていない状況での証拠集めという、別居婚中の浮気ならではの難しさがあります。
別居婚ならではの慰謝料請求の難しさを考えると、証拠を掴む段階で、弁護士の紹介などのアフターフォローがある探偵事務所に依頼しておくのがおすすめです。
全国に拠点をもつ探偵事務所であれば、遠くで暮らす配偶者の調査もスムーズでしょう。